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懲りずに重松清。
3月連続で重松清が文庫化されて勝手に盛り上がっている私。 そしてボキャブラリーの少なさから同じ感想しか書けないのではないかと少々怖気ついている私。 そうは言ってもどうせ見に来る人少ないんだし自分のフィードバックと思えば…って。 以前某巨大SNSで重松清について書いた文章を引用。 もし今ここにシェンロンが現れて、 「お前の欲しい能力を一つ与えよう」 と言って目をキラーンとさせたら、さて何が欲しいだろう? 藤川球児のストレートを投げる能力か、バリー・ボンズのホームランを打つ能力か、マイケル・ジョーダンのバスケットの能力か、ビル・ゲイツの流行を見極める能力か、小林一三の経営の能力か、太田光のお笑いの能力か、エリック・クラプトンのギターを弾く能力か… まあなんでもいい。 私が欲しいのは「重松清の表現力」 氏の小説を読むといつもそう思う。 以上引用終了。 本当にそう思うくらい重松氏の文章はすごい。 基本的に作家には得意なジャンルがあって同じようなモチーフをいつの間にか使っていたりするものだが、今回はちょと異ジャンルの作品もある。 最初の2編なんか特にそう思ったのだが、最近の「世にも奇妙な物語」向けの文章だな、と。 不思議な感覚が出てくる話。 重松清の文章はあまりがついてくる文章だという感覚があるが、今回はそのあまりがとても不思議な感覚をもたらしてくれた。 後半になり、『送り火』や『家路』なんかは重松氏らしい話だが、今回は最初の2編『フジミ荘奇譚』『ハードラック・ウーマン』が印象に残った。 送り火 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 重松 清 / / 文藝春秋 スコア選択: 別に私はドイツが好きなわけではないし、ドイツに行ったこともない。
ただなんとなく「読んでみようかな」と思って購入した。 別に期待したわけでもなく何となく読んでいたが、思いのほか面白かった。 『世界の日本人ジョーク集』という今流行っている本がある。 直前にそれを読んだことが理由かもしれないが、ドイツ人=頑固というイメージが強い。 本作は実際に日本人が現地で感じるドイツ人について書いてあって自分のイメージとの相違を感じながら読み進めた。 題名でドイツと言っている割にはミュンヘンとベルリンの話が殆ど。 ちょうどベルリンの壁崩壊前後世代の私にとって今のドイツしか知らない。 しかし、ベルリンの壁前後の話が多く、ドイツの歴史を感じられたのは確か。 さて、ドイツ人のイメージであるが、概ね思っていた通りだったようだ。 ただやはりステレオタイプなイメージになりすぎていた感は否めない。 ドライな感じのあったドイツ人でもやはりビールの祭りになると騒ぐんだな、とか。 さらに社会保障の話は作者自身否定的な書き方をしている分もあるが、日本と比べてみると五分五分かな、と。 労働者保護に関しては日本の制度は進んでいるものの、生活保障の面ではやはりヨーロッパ各国の方がいいかもしれない。 ただこれは日本人やドイツ人の考え方の違いも大きいので、日本人が書くと否定的になってしまうのかもしれない。 こういうのは実際には体験してみなければ分からない。 ゲーテが言った「母国語を知るには外国語を学ばなければならない」という言葉。 言いえて妙。 こういった本は本当にためになる。 びっくり先進国ドイツ | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 びっくり先進国ドイツ熊谷 徹 / / 新潮社 ISBN : 4101322325 スコア選択: 沖縄・那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯行グループ3人の要求は、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を空港まで「連れてくること」。ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、事態は一変。極限の閉鎖状況で、スリリングな犯人探しが始まる。
各種ランキングで上位を占めた超話題作が、ついに文庫化! …とのことです。 おそらく「腑に落ちないミステリランキング」「途中で読むのをやめたくなってくるミステリランキング」「意味のないどんでん返しがついているミステリランキング」で上位を占めたものと思われる。 ミステリとしては犯人は候補からして一人しかありえないし、動機やなぜここで殺さなければならないのかといったところまで不明な点ばかり。 トリックや全体のハイジャックの仕方など特徴を出そうとする姿勢は見えてくるが、「奇をてらったものの、意外と反応はよくない」といった印象しか残らないのは残念。 ハイジャックに至る動機や登場人物のつながりなどは分からないでもないが、宗教的な奇妙さには個人的にはついていけない。 光文社文庫が今推している作品『セントメリーのリボン』『真相』に続いて読んだものの、これだけはイマイチ。 これは作者の個性なのか、自分の感性がついていけてないのか判断に悩むところ。 一言、消化不良だった。 月の扉 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 月の扉石持 浅海 / / 光文社 ISBN : 4334740456 スコア選択: 今年後半になってどっしりした作品を求めるようになり、今まであまり読んでいなかった横山秀夫や桐野夏生などの本を読み始めた。
その時に『OUT』『模倣犯』『半落ち』は今年中に読もうと決めたものの、実際に読めたのは『半落ち』のみ。 ただでさえ文庫でしか読まないため世間の流行とはかなりかけ離れているのに、これでは余計離れていってしまう。 ただ、その読めない理由というのも存在する。 『OUT』『模倣犯』についてはボリュームの多さが一番の要因。 通勤の電車の中が主な読書時間である現状では大作を読了することへの対策がたてにくい。 そして『半落ち』…というか横山秀夫作品については「もったいない」という感情。 作品の長さでは考えられないほどの凝縮された作品ばかりである。 続けて何作も読んでいくと全てが複雑に混ざり合って訳が分からなくなってしまうという恐れがある。 一作一作時間をかけて、できれば合間に軽い作品やエッセイなど全く違うものを挟んで読みたいと思ってしまう。 一週間に横山作品は一作読めればいい状態で読んでいる。 前置きが長くなったが本作もその横山作品の粋が詰まっている。 妻殺しを犯した現職警察官に存在する空白の2日間。 事件の内容や動機に関して全てを素直に話す一方、この空白の2日間についてはどうしても語ろうとしない。 真相を追い刑事・検察官・新聞記者・裁判官までもが東奔西走する。 様々な視点から事件を追い、最後数ページで明かされる事件の真相。 早く読みたい気持ちと一字一句大切に読み進めたい気持ちが錯綜する。 決して長いとはいえない作品に詰めこまれた重厚さ。 改めて感服した。 半落ち | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 半落ち横山 秀夫 / / 講談社 ISBN : 4062751941 スコア選択:
毎年1年に1回は流行病のように「自分の中でクスリと笑える作家を見つけたい」と思う。
私の中でその系譜に連なるのは原田宗典、土屋賢二、宮沢章夫…。 今年は見つからないまま終わると思っていたところ、12月に入って見つけた。 それが北尾トロ。 『裁判長!ここは懲役4年でどうですか』でおっ!と思い、12月後半になって3冊立て続けに読破。 そのうちの1冊が本作『危ないお仕事!』 前作『怪しいお仕事!』に引き続き「求人雑誌には出ないような職業」に焦点を当てて紹介している。 本作は前作よりも趣味的というか「仕事」ではないものも含まれているような気がするものの、「知りたいけど知りたくない」的なものに焦点が当たっている。 著者が実際に取材をして書いているのであるが、著者の情熱(知りたい!と思う情熱)と共に様々な職業の人々の自分の職業に対する熱意などもひしひしと伝わってくる。 クスっと笑えて、チョビっと感心出来て、ホーと思ってしまう。 書き方も無駄なく軽く読めるので、一度読んでおいて損はない。 話しのネタになる。 危ないお仕事! | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 危ないお仕事!北尾 トロ / / 新潮社 ISBN : 4101282528 スコア選択: 単行本として出版し、小説すばる新人賞を受賞して話題をさらった本作。
この時点で文庫化されるのは確実だったので当時の私はこの作品に対してイメージを持ちつつも、すぐ読まなくても問題はないと考えていた。 そして今文庫化されて手にとって後悔した。 一度早いうちに読んでおいた方がよかった。 ある日、突然にとなり町との戦争が始まった。だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。それでも、町の広報誌に発表される戦死者数は静かに増え続ける。そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた……。 第1章から第5章そして終章と続く各章で話は勿論続いていくわけだが、第5章で一度また終章で一度話が終わるように感じる。 言葉にしにくい不確かな感覚が頭に張り付いて離れない。 とても不思議な感じがする。 「戦争」という本来現実感を伴う出来事が行事として遂行されていく。 実際に主人公が武器を持って戦地に赴く設定があるわけでもなく、身近にいた人間の死を感じつつ物語が進むわけではない。 実際に目で戦争の状況を確認しながら生きているのではないのだ。 「戦争」を現実感のないものと設定し、実際に戦争を行うのは煩雑な手続きを踏む役所。 この現実感の所在も不確かなまま現実には戦争が行われる。 ものすごく捉えにくく、頭を使わせる、意外と難しい作品だ。 本作で戦争についての記述で印象深かったのは次の2点。 「おだたかな光の下に広がる大地を俯瞰するようなイメージ」 「もちろん見えないものを見ることはできません。しかし、感じることは出来ます。どうぞ、戦争の音を、光を、気配を、感じ取ってください」 正直現段階でこれを言葉で表現するのは難しい。 何年後か、必ずもう一度読もうと誓った一作である。 となり町戦争 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 となり町戦争三崎 亜記 / / 集英社 ISBN : 408746105X スコア選択: 私のような熱烈な重松清ファンがこの本を初めて本屋で見ると「おっ」と思うはず。
重松清の著作を貫くテーマが「東京」と「哀愁」なのだから。 本作の主人公は絵本を書けなくなった40歳の絵本作家。 今ではフリーライターとしての仕事で食いつないでいるという状態。 彼が東京で出会う人間ドラマをさらっと描いていくという話。 筆者自身が岡山県出身で、誤解を恐れずに言うと「田舎から東京に出てきた人間の目線」で様々な人間模様の裏側を見ていくといった作品が多いのが特徴。 また今回は角川文庫だが、角川文庫と重松清というのも興味をそそられる要素の一つ。 ファンの間でも賛否両論の分かれた『疾走』が出版されたのは角川文庫。 その他には『かっぽん屋』が出ているが、これもまた意外な味のある意外作。 そうなると角川から出る本作に対しての期待もいやがおうにも高まるというもの。 果たして期待通りの作品。 単体の物語としても読み応えがあるが、それ以上に熱烈なファンに対して今までの集大成を思わせる作品になっている。 主人公がそこそこ売れた絵本を出すものの、それがきっかけで次作が書けなくなる。 いつかはわかるだろう。(略)僕が新作を書けなくなった理由も。そして、たとえわかっても、うまく言葉にすることはできないだろう。いまの僕がそうであるように、だ。 これが底辺に巣くった状態で話は進む。 色々な人生に出会い、次回作を諦め、また次回作に向かおうとする…。 最終的にどうなっていくのかというサブテーマも心を揺さぶる。 主人公を囲む脇役にも味があって泣けてくる部分もある。 やっぱり熱烈なファンとしては、こういう作風に惹かれてしまうのだろう。 今、「ボウ」と読む感じを頭に浮かべてみて欲しい。 最初に浮かんだものから3つ、紙に書いてみる。 そうすると今の心理状態がわかる。 こういった心理テストが出てくる場面がある。 詳しくは小説を読んだ人にだけ噛み締めて欲しい、本作の隠れた名シーンである。 来月また重松清の作品が文庫本で出版されるという話を聞いた。 当分は離れられそうにない。 哀愁的東京 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 哀愁的東京重松 清 / / 角川書店 ISBN : 4043646046 スコア選択: いわゆる医療サスペンスと呼ばれる分野の本作。
主人公はウイルスについて研究する医者。 主人公の夫(外科医)の前妻の息子が誘拐され、後に焼死体で発見される。 その前後から夫の行動にも疑問を持っていた主人公。 謎を追ううちにそこには衝撃の真実が待っている。 あらすじはものすごく簡単に書ける。 小説としての出来としてははっきり言って良いと言えるものではない。 別につまらないわけではないが話の流れがよくある感じで、思ったところで盛り上がりが”期待通りに”やってくるという感じ。 登場人物の設定には細かい部分は感じないし、なんせミステリの割に登場人物が少ないので先が読みやすい(これはフーダニットがメインではないせいかもしれない)。 ただ、医療分野の問題点を主題に盛り込むと共に事件の発端となる設定なども決して書きやすいものとは思えない(私が医療に明るくないせいもあるだろうが)にも関わらず、素人にとっても分かりやすく書かれている。 話のテンポもいいし、どんどん読み進めていける。 そしてなんと言っても、これこそ2時間ドラマ向けではないか。 このテンポと主題、わかりやすさ…。 はっきり読者の中で登場人物の人間性が残るような作りにもなっていないので映像向きだとは思うのだが。 重厚な作品からくだらない作品、笑える作品、軽い作品…。 読書はこういった色々な世界を覗けるのが楽しいので、こういった作品も必要だ。 感染 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 感染仙川 環 / / 小学館 ISBN : 4094080465 スコア選択:
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教についての入門書。
しかし作者は宗教学者ではない。 あくまで趣味が高じて宗教の本を書いてしまったというものである。 日本人にとっては理解のしにくい一神教の世界。 しかも日本で宗教のことについて声を大きく論議するのはご法度。 生活の中には宗教的考え方が意外と多く入り込んでいるのに。 話の流れとしては3つの宗教の成り立ちと簡単な内容が書かれ、最後に作者と各宗教について見聞のある3人との対話が収められている。 作者の解説は「自分も素人」というだけあって分かりやすい。 自分も分かるように整理しながら書いてあるような気がする。 いままで特に興味があった分野ではないが、簡単な内容は知ることが出来た。 ところところで作者の意見も入っているが極めて客観的に書いてある。 私が「?」と思ったところで作者の「ここは日本人には理解しにくい部分かもしれないが」ろと入っていたりして懇切丁寧な?書き方である。 その後は対談になるわけだが、ここにきて最初の解説部分の分かりやすさが効いてくる。 各人とも「自分の宗教が絶対で他は認めない!」という頑固な姿勢ではない。 「他の宗教を信じている人に改宗するように言う権利は自分にはない。ただ宗教対立が起きるのは他の宗教のポリシーに柔軟性がないからだ。自分達の宗教は他の宗教も認めている。」というスタンスで話は進んでいくのだが…。 やはり宗教を信じている人は口では違うと言っても自分の宗教が絶対だと思っている。 聖書やコーランの記述も自分達の都合のいいように解釈しているなと、全然知らない自分でもそう思ってしまうところはあった。 面白いと思ったのが2点。 まず、日本は多神教ではなくて多宗教であるというところ。 クリスマスと正月と…、そういうのをこうやって表現すべきなのか!と感嘆してしまった。 たしかこれはイスラム教徒が言っていた記述だったはず。 そして次に「宗教が理由の戦争は今までない。結局は政治的な対立なのだ」という部分。 本当にそうなんだろうか。 日本人には分からない理由の戦争ってある気がするんですけどね。 …とこれ以上は政治的発言なので自粛。 本としての完成度は素晴らしいと思う。 最低限の知識を身に付ける上でもいい本だと思う。 ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座井沢 元彦 / / 徳間書店 ISBN : 4198925070 スコア選択: 清水義範の大人気お勉強爆笑エッセイ。
『おもしろくても理科』『どうころんでも社会科』など小学校の主要4教科を制覇した(?)清水義範がその締めくくりとして雑談授業をしようという本作。 理科や数学編でも「意外と面白いぞ」と思わせてくれただけあってこれもなかなか面白い。 テーマは歴史・料理・幽霊・暦・奴隷・墓・天使・聖書・旅行・宇宙。 これについて難しくない程度に簡単に話をしている。 本作は「シミズ博士の雑談授業」という副題がついているが、まさに授業中の雑談を聞いているような感覚である。 とても興味をそそられる内容だし説明も分かりやすい。 元々清水義範のエッセイでは知性があるところが垣間見えるが、こういう風にあまり知らないことを説明する形になると「わかりやすい」と思える書き方をしてくれてありがたい。 こういう話だと聞く気になる。 私は「知ると覚えるはべつのこと」と思っているがまさに「知りたくなる話」ばっかり。 これを誰かに説明できるかといえば出来ないのだが…。 このお勉強シリーズのエッセイは個人的にとても好きなものであった。 これが最終章だというとちょっと寂しい。 今学校教育の話によく出てくる「総合学習の時間」 こういうのをやったらいいのではないか? 学校に対する見方が変わってくると思う。 飛びすぎる教室 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 飛びすぎる教室清水 義範 / / 講談社 ISBN : 4062755882 スコア選択: 同氏著作『真相』の一編として収録されていた、婦警が主人公の物語の続編。
本作では婦警平野瑞穂を主人公に編纂されている。 「だから女は使えねえ」 完全男社会の警察組織の中で頑張る婦警がとある事件でこう言われたのが物語の軸。 主人公が必死に頑張っている姿がよく伝わってくる。 横山秀夫といえば男社会(警察を書いているからそう思うだけなのかもしれないが)というイメージがあったが、婦警も上手く書かれている。 女性独自の考え方や着眼点が最後には話の核になってくる。 そのあたりの話の持って行き方は本当に素晴らしい。 作中で「婦警」という呼び名が差別に当たるのではという議論を婦警同士でしている場面がある(といっても場面はカラオケボックス)。 しかし子供の頃から婦警に憧れていた平野は「女警」ではなくて「婦警」に憧れて生きてきたんだから名称変更はイヤだ!と一人主張する(と言っても酔っ払い状態)。 このあたりの描写には素晴らしいと感じてしまう上に、物語に奥行きをもたらす。 細部にこだわる横山秀夫の真骨頂がここにも見える。 またあとがきを読んで始めて知ったのだが、本作は仲間由紀恵主演でドラマ化されているとのこと。 正直なところ『真相』で初めて出会った自分としては、平野瑞穂のイメージとして仲間由紀恵はしっくりこない。 『顔』では時折見せる確固とした信念や鋭い感覚などを見せている。 頼りない雰囲気を出しながら内に秘めた情熱を持っている主人公。 こういうのはドラマ化は難しいと思うのだが。 顔 FACE | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 顔 FACE横山 秀夫 / 徳間書店 ISBN : 4198922330 スコア選択: 上巻あらすじ
大手広告代理店・東邦広告に勤める辰村祐介には、明子、勝哉という2人の幼馴染がいた。この3人の間には、決して人にはいえない、ある秘密があった。その過去が25年の月日を経た今、何者かによって察知された・・・・・・。緊迫した18億円の広告コンペの内幕を主軸に展開するビジネス・ハードボイルドの決定版ここに登場! 下巻あらすじ 新規クライアントの広告コンペに向け、辰村や戸塚らは全力を傾注する。そんな中、3通目の脅迫状が明子の夫の許に届いた。そして勝哉らしき人物がうえの近辺にいることを突き止めた辰村は、ついに行動を起こす!広告業界の熾烈な競争と、男たちの矜持を描くビジネス・ハードボイルドの結末は? そんなことより個人的に藤原伊織は私にとって数少ない「安心できる」作家である。 書店で本を見かけたときに上下巻あっても作者の名前を見ただけで中を読まずに買うという意味で「安心できる」作家である。 本作にはこの「安心感」「安定感」が感じられる。 主人公辰村の私生活に関することと広告代理店での仕事に関することが軸になっている。 この2つの軸が主となって他の色々な要素が絡んでいくのであるが、この作品に対して「多くの要素が複雑に絡み合っている」という表現は合わない。 あくまで2軸は真っ直ぐ立った上で様々な要素が2軸の橋渡しをいたる所で行っている。 読んでいてこの図式ははしごを思わせる。 細かい要素は多い上それぞれが確固としている。 その中でも読んでいる中で気になって仕方なかったのが戸塚である。 作中で意外と重要な場面で出てくる上に、作中で最も成長・変化のある人物である。 最終的に前述の2軸に対して戸塚が不自然に関係していくことなく、話を支える名脇役として存在感を示している。 また、戸塚以外にも立花・笹森・浅井etc…サブストーリーとして独立した話を作れそうな登場人物が満載である。 これらの色々なキャラクターも話に安定感をもたらしているように思う。 藤原伊織の『テロリストのパラソル』という作品は江戸川乱歩賞と直木賞を両方受賞したきわめて珍しい作品である。 氏の作品はもっと評価されてもいいと思う。 シリウスの道〈上〉 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 シリウスの道〈上〉藤原 伊織 / 文藝春秋 ISBN : 4167614030 スコア選択: シリウスの道〈下〉藤原 伊織 / 文藝春秋 ISBN : 4167614049 スコア選択:
猟犬を専門に扱う探偵竜門卓シリーズの短編集。
第一作(『セント・メリーのリボン』に収録)では盲導犬を探した主人公が今回もトナカイや馬を探すことにもなるのだが、基本的には猟犬専門の探偵である。 これは一言で評価するのは難しい。 探偵が主人公となっているがミステリではない。 筋の通った男の生き様を嫌味なく書いていて清々しい作品。 作品の一面に過ぎないが「人間、男とはこういうものだ」というのを示している。 ただ、それを狙いすぎることなく淡々と変に誇ることもなく書いている。 主人公の言動も自然であり、自分の思うがまま生きている。 主人公に限らず他の登場人物についても必要最低限の言葉で見事に描いている。 主人公の目線で書いているため他の登場人物は主人公の思ったままの描写。 寛闊・豪放・闊達…。 単語の選択が見事。 折角なので主人公の良さについても一言。 解説にも簡単にまとめてあるが、祖父の死により兵庫県に近い山林35000坪を相続し、かねてから自然の中で暮らしたいという願望の下東京からこの土地に移り住んだ主人公。 浮世離れしているというか、感覚が他の人と違うのか。 細かいところにもポリシーが出ていたりする。 この上なく不味いカレーライスを喰った。福神漬けのないものをカレーライスといえるとしての話だが。 私はここがツボだった。 カッコイイ!と変な感激の仕方をしてしまった。 また、昨日会ったばかりにも関わらず義理の妹を嫁にしろと言う人間に対し 昨日会ったばかりの俺に、縁談を持ちかけている。義妹を貰えといっているのだ。まるで犬の子を貰えというように。 この最後の一文にも味がある。 淡々と話している人間が突然真顔で冗談を言うような感覚というか…。 惜しむらくは作者が既にいないことか。 それにしてもこういった作品を復刻してくれる光文社は凄い。 猟犬探偵 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 猟犬探偵稲見 一良 / 光文社 ISBN : 4334741258 スコア選択: 第39回江戸川乱歩賞受賞作。
親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、一億円を持って消えた。大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部に繋がるくらい過去を持っている。あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。二転三転する事件の真相は?女流ハードボイルド作家誕生の’93年度江戸川乱歩賞受賞作! これは文庫本の裏表紙に書かれたあらすじ。 確かにその通り。そのままの展開。 この本の展開は凄くきれい。 といっても盛り上がりとか話の抑揚とかのこと。 全体が大きな波になっていて部分部分に小さな波があって。 読み始めの頃の「ん?」という疑問が見事に伏線になっていて、最後の謎解き(というか主人公が犯人を問い詰めるところ)なんかはテレビドラマのように見事で。 ミステリーの手本のような展開。 野球初心者用の本に乗っているピッチャーのコマ割り写真のようなというか。 ただなんかきれい過ぎるんだな。 女の人が「なにくそっ」ってな感じで活躍する。 私はこの重厚さのあるきれいさは結構好きだが人によっては拍子抜けにもなるだろう。 ところで最後に「どんでん返し」的な展開がある。 その展開の前で話が終わっていたら「つまらない」で終わっていた本作。 そこで登場人物が一言。 『ああ、わかってる。でも、あまりにきれいに収まりすぎてる。それが問題なんだ』 まさにその通りだ!と思った。 そして見てみれば左手部分には不自然にページが残っている(笑) このやり方も読者をひきつけて”見事”で”きれい” コアなファンのいる作家だし実際地に足ついた落ち着いた書き方。 以前読んだ『リアルワールド』とはまた違った良さがある。 乱歩賞受賞作でこれということはおそらく他の作品はもっと面白いだろう。 顔に降りかかる雨 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 顔に降りかかる雨桐野 夏生 / 講談社 ISBN : 4062632918 スコア選択: 犯罪喜劇といったところだろうか。
偶然出会った二人が現金強奪を目論むが失敗。 強奪を邪魔した女と組んで再度現金強奪を目指す。 しかしそこにはチャイナマフィアや暴力団も絡んできて…。 はたして完全犯罪の末の現金強奪は出来るのか? 私と奥田英朗の出会いは『延長戦に入りました』という爆笑スポーツエッセイ。 なんて面白い文章を書く人なんだと思い名前は頭の隅にあったところに飛び込んできたのが「奥田英朗、直木賞受賞」のニュース。 んん?同じ人??でもスポーツエッセイ書く人が直木賞???と混乱した覚えがある。 その後直木賞受賞作『空中ブランコ』のシリーズ前作『イン・ザ・プール』を読んだ。 ハチャメチャな展開にも関わらず最後はビシッと締める。 これは面白いと思った。 そして読んだ本作。 これって同じ人なの?というのが読後の第一感。 展開もスムーズだし面白いし笑えるところもあるけど、私としては暇つぶしに読むのに最適という程度の感想しか持てなかった。 そしてどこが”真夜中”の”マーチ”なのか謎だらけ。 おそらく奥田氏のファンからしても満足度は相対的に低い作品ではなかろうか。 個人的に「おっ」と思ったのはここ。 拳銃を持った相手に挑む時に防弾チョッキをつけるかどうか考える。 「防弾チョッキはいるかな」(略) 少し逡巡し、やめることにした。お互い、そんな自体は想定したくなかったからだ。 「神に祈りましょう」 これは日本人特有の「言霊」の考え方である。 防弾チョッキをしなかったからといって相手が銃を使わないわけではない。 軍隊を持たないからといって外国が戦争を仕掛けて来ないとは限らないのと一緒だ。 そんなしょうもないことを読んでる最中に考えてしまう本作。 とりあえず奥田氏の本は『空中ブランコ』が文庫化されるまで待とうか、と思った次第である。 真夜中のマーチ | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 真夜中のマーチ奥田 英朗 / 集英社 ISBN : 4087460959 スコア選択: 荻原浩の真骨頂。
大きな敵と戦う社会人の奮闘をユーモア交じりに描いている。 民間企業を退社して生まれ故郷の田舎の市役所に転職。 何もかも違う体制の中で様々な困難に立ち向かう主人公。 市が出資している赤字続きのテーマパークを立て直す。 しかしただ戦略を考えるだけではきかないこの仕事。 馴れ合い体質・丸投げ体質の残る旧態依然としたお役所仕事の前に跳ね返される。 その中で戦っていくお父さん。 決してカッコよくはないものの「お父さんの背中を見て育つ」息子もいる。 笑いあり涙あり。 荻原浩の持ち味が存分に発揮されている。 作者自体元広告代理店勤務ということもあり広告関係の話がちりばめられている。 それでも話はくどくなく爽快。 テンポよく軽快に話は進んでいく。 『明日の記憶』『僕たちの戦争』といった思いテーマの作品を書ききる作家の真骨頂は『オロロ畑でつかまえて』『神様のひと言』といったユーモア溢れる元気の出る小説。 デビューは比較的遅い作者ではあるが、もっと評価されてもいい作家だと私は思っている。 これからも注目していきたい。 メリーゴーランド | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 メリーゴーランド荻原 浩 / 新潮社 ISBN : 4101230331 スコア選択:
日本の正月の風物詩ともいえる箱根駅伝。
その箱根駅伝の直前にとある大学のマネージャーが誘拐される。 犯人は電波ジャックまで行い周囲をあざ笑うかのような犯行を決行する。 果たして犯人は誰で、どのような目的なのか。 …というストーリー。 実際にこの小説に出てくる大学は実在の大学。 箱根駅伝を見ているとよく聞く名前の大学ばかりである。 そういった舞台設定により臨場感が増している。 通常誘拐ものの作品では警察と犯人のせめぎあいが描かれる。 今回も加害者と被害者に勿論分かれているわけだが、被害者側が警察と番組プロデューサー側でまた思惑がずれている。 お互いに自分たちの主張を行い、いわば三つ巴といってもいい展開になっている。 その反面箱根駅伝を走る走者たちは、損得を抜きにして自分のためにチームのために青春を費やしている。 犯罪と青春が平行して進んでいく様も見ものである。 そしてここにまたこの事件の鍵も隠されているというわけで。 作中によく出てくるテレビ用語?やアンテナなどの専門用語は私には全然分からず、一部では話がよく分からない部分もあった。 ただ話の流れや登場人物の気持ちの動向などが分かりやすくスムーズに描かれているので、「サスペンス」の割には読みやすいと感じた。 最後の終わり方がきれいすぎる気がしないでもないが、久しぶりに重厚と軽快さの上手く合わさったサスペンスだろう。 強奪 箱根駅伝 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 強奪 箱根駅伝安東 能明 / 新潮社 ISBN : 4101301514 スコア選択: 家族をモチーフに「卒業」(始まりを伴う終わり)を描いた作品集。
人間の弱さにテーマを当ててシチュエーションが展開される。 イジメ・死・親子関係…。 こんなに大人と子供の目線がうまく描けているのは驚き。 あまりにも良作過ぎて重松清が嫌いになった。 作品の内容自体にも文句はないが、人物描写が素晴らしい。 中年の作家が書いているはずなのに少年少女の描写が絶妙。 いかにも小説だから…と言われるほど絶妙。 いじめられている女の子が、送られてくるいたずらメールに向かって一言。 「カンペキな証拠物件」 さらっと書けば「物的証拠」などというところだろう。 こういう細かい配慮がさらっとなされている。 さらに人間の視線や考えも上手く織り込まれる。 本作では友人が自殺した夫に妻がこう言う場面がある。 「わたしはちょっと嬉しかった」 ここだけ抜き取ると不謹慎極まりない場面。 だが実際に読んでいくとこの場面もふさわしい伏線のようになっている。 物語の筋以外にもじっくり読めば読むほど味が出る。 色々な視線から物語を読める。 「追伸」(個人的に一番良かった話)では息子の視線に異常に入り込んでしまって涙が出た。 「「視線」を「目線」と言い換えるひとは、あまり好きではない」 どうでもいいこういった言葉にも「やられた」と感じる。 卒業 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 卒業重松 清 / 新潮社 ISBN : 4101349193 スコア選択: この本がハードカバーで出た時に色々と話題になったが私は「これなら文庫になるからその時に買うか決めよう」と考えた。
見誤ったかもしれない。 これはハードカバーで買っても良かったかもしれない。 軽い気持ちで読み始めたが、テーマ的に予想以上に重かった。 健常者でも日本では性に対してタブー視する部分がある。 公の立場で話す話題ではないとみなされている。 障害者ともなるとなおさら。 私としては「障害者」と「性」が結びつくものだとは思っていなかった。 この本を読んでしまった今となってはなぜそう思っていたのか不思議でならない。 この本は障害者が向き合っている性について書かれている。 題名に「ボランティア」とあるが、実はこの言葉が厄介。 健常者の性風俗でも他のサービス業よりも高い料金設定になっている。 しかもただでさえ世間的認知として「障害者」と「性」は結びついていない。 その中での「障害者に対する性のボランティア」とは…。 実際の障害者の思いも含めて読む価値がある。 作中に障害者に対して「性欲を与えてしまって残酷だ」といった表現をする部分がある。 万人の思い(本当は偏見なのだろうが不覚にもそう思っていなかった)がこの言葉に凝縮されているような気がして自分自身にショックを受けた。 単なる性に対するルポルタージュではない。 人間のあり方を説いているのかもしれない。 セックスボランティア | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 セックスボランティア河合 香織 / 新潮社 ISBN : 4101297517 スコア選択: 実際にサラ金(消費者金融)で働いている女性がサラ金業の裏側を書いた本。
実際サラ金と縁のない私としてはサラ金にいいイメージを持っていない。 実際に社会的なイメージも悪いと思うが、本当はどうなのか。 作者が述べているが、サラ金は「初対面の人にお金を貸してくれる」商売である。 金利は法律の範囲内で定められているし返済計画も客と相談するのだとか。 決して悪徳商売ではない。 サラ金嬢は外ではお客さんと話しをしないようにするだとか仕事中はバッチリメイクでアクセサリー類はつけてはいけないだとか細かい裏話なども満載。 仕事上の困難や私生活での困ったこと・人生観の変化など結構細かい。 個人的に興味深かったのは「松嶋さんと反町君」の項。 ここで詳しくは書かないが、どんな職業でも一般消費者と直接顔を合わす職業には様々な隠語が使われている。 もし出会う機会があれ…いや、出会う機会を作らないようにしたい。 サラ金業界の別の顔を見ることが出来た気がする。 ただ、作者は大卒2年目の女性ということになっているが、おそらく違うだろう。 法律的な知識がものすごく整理されて書かれていることもあるし、わざわざ本を書いておいて仮名というのも不思議だ。 サラ金嬢のないしょ話 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 サラ金嬢のないしょ話小田 若菜 / 講談社 スコア選択:
軽くてダサくてくだらなくて、そしてとっても面白い話。
弱小高校野球部にスーパーエースがやってきた。 練習していないのにそいつのおかげで甲子園は目の前。 果たして本当に甲子園に行ってしまうのか!? …といった感じのあらすじ。 その後色々あって、最後はああなります(ネタばれ防止の為自主規制)。 高校野球規則では夏に転校した生徒はその年の公式戦には出られないはず。 といった細かいことを気にする人はこの本を読まなくてよい。 そういう人にとっては無駄な小説かもしれない。 また設定が1985年になっていておニャンコクラブの話が出てくるが、私はよく分からない。 そのあたりの時代設定がすこし単純すぎるというかちょっと物足りない。 オニャンコクラブさえ出てこなければ2006年でも読めてしまう。 細かい”いちゃもん”はこのくらいにしておいて。 意外と面白くてどんどん読み進めていってしまうこの作品。 「もう飽きたんや。言い訳ばっかりしてることに。」 といったセリフを簡単に恥ずかしげもなく書いている。 簡単に軽い口調で色々なことを登場人物に言わせている。 その辺の軽妙さが鍵となっている。 読んでると楽しくなってきて、いつの間にか目の端にじわっとくる。 バカな時代を軽快に書ききった物語。 小説なんだからこんな話もいいではありませんか。 1985年の奇跡 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 1985年の奇跡五十嵐 貴久 / 双葉社 ISBN : 4575510769 スコア選択: 哲学者の書いたエッセイ。
本作の前に読んだ本が理論的だった。 本作も哲学者が書いた本なので理論的だったに違いない。 とことん日本語は難しい。 だからこそ面白いのか。 著者は日本語を駆使して得意(他のものに比べれば)な哲学的思考により現代に存在にする様々の事象に対して考察を加えている。 「風が吹いているわけではないのにこの扉はとじたりしまったりしています。なぜでしょう。」 といったなぞなぞがある。 子供の時はなぞなぞに簡単に引っかかることはなかったものだが(ただ単に答えが分からなかっただけだ)大人になると意外と引っかかってしまう。 この本を読んでこのなぞなぞを思い出した。 同じような書き方がされているから本当なら納得してはいけないことでも納得しそうになってしまう。 読むときは色々な意味で注意が必要だ。 以上のように考えてみると著者は童心を忘れていない純粋な心の持ち主に感じられてしまう。 邪悪な大人に成長していないのだろう。 ふぅ、著者を褒めすぎて疲れた…。 というか著者のような論の展開をしようとするとものすごく疲れる。 これは意外と著者に文才があることを示しているのかもしれない。 嘘だと思うなら「解説」を読んでみたら良い。 著者と同じような書き方をしようとしているが著者とはやはり切れ味が違う。 百歩譲っても著者の様には書ききれてはいない。 簡単に断れない。 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 簡単に断れない。土屋 賢二 / 文藝春秋 ISBN : 4167588099 スコア選択: 歴史ミステリのテーマとしては直球ど真ん中である邪馬台国。
私は歴史を専門に勉強しているわけではないので詳しくはわからないが、九州説と畿内説と言う全く違う場所に大きく大別される歴史上の謎。 本当は歴史学者に任せておけばいいものに作家が挑んでいく。 そこまでさせる程の魅力があるのだろう。 本作は神津恭介という主人公がベッドの上で邪馬台国を比定地していく。 安楽椅子探偵ならぬ「ベッド・ディテクティブ」 ネタばれはしたくないので結論は言わないが、そこまでの展開が細かい。 魏志倭人伝の表記に対して少しもごまかすことなく忠実に辿っていく手法である。 その通り、この作品は細かい。 若干言い方が古めかしいことも手伝って読みにくい部分がある。 また、読む際に魏志倭人伝の原文(書き下したものだが)と現代訳を逐一見ながら読んでいかないと話についていけなくなる。 さらには邪馬台国の秘密以外の内容まで脱線していくものだからものすごく疲れる。 一日では読破できない。 ものすごく疲れる。 その分読了後の充実感があるし、思わず納得させられる。 邪馬台国などは特にそうだが、作者の細かい発見から話を作っていくようだ。 歴史は義務教育で習うものだが、実際に誰も見たわけではない。 歴史家の見方がおかしいことも考えられるわけだ。 そういった謎に挑んでいく作家の気力には脱帽だ。 久しぶりに頭をフルに使って本を読んだ気がする。 こういう本があるから読書はやめられない。 邪馬台国の秘密 新装版 高木彬光コレクション | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 邪馬台国の秘密 新装版 高木彬光コレクション高木 彬光 / 光文社 ISBN : 4334741428 スコア選択: 様々な意味で「面白い」小説と言える。
家族の絆を無駄なく描いている …と言うときれい過ぎるか。 確かにそうなのだが、小説中の「家族」の定義は複雑。 簡単には言えない。 この小説は登場人物が無駄なく繋がっていて、まさに小説。 さらに比喩や言外の示唆に富んでいて真っ直ぐには読めない。 話のペースに巻き込まれてどんどん読み進めようとすると、イキナリ肩透かしを食らう。 真面目な話の中に軽く冗談を挟んで読者をいなす。 常にはぐらかされているような感じで意外と疲れる。 こういう書き方は嫌いではないが、凄いと思う。 軽いものを重そうに書くのは意外と楽。 意図的に漢字を多く使ったり、聞き慣れない言葉を使えばいい。 ただ、重要なテーマをここまで遊び感覚を交えて書けるのは凄いと思う。 例えば8行続けて同じ文字数で言葉を並べる。 例えば7行の会話の長さを徐々に短くして階段状の表記をする。 話のクライマックスの部分なのにこういった視覚的な遊びをしている。 読者を試しているのかもしれない。 私自身伊坂幸太郎作品を読んだのは本作が初めて。 「伊坂幸太郎をメジャーにした作品」のような解説をされる本作。 伊坂幸太郎ファンはこういう書き方を好むのか。 果たして伊坂ファンは理解して読んでいるのか。 思わずそう思ってしまうほど知己に富んだ作品だ。 本作は好き嫌いの分かれる作品と思われる。 重力ピエロ | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 重力ピエロ伊坂 幸太郎 / 新潮社 ISBN : 4101250235 スコア選択:
扱っているテーマは重い。
というか完全に小説のストーリーだがテーマは重い。 人間が生活していく中で隠しておきたい秘密や不安・心配が少なからずある。 そういった隠しておきたいことを目の前にしたときに人間はどうするのか。 これが全ての柱になっている。 社会の脆弱性や世間体。 世間の無関心に噂・興味。 これらを目の前にすると人間は自分の弱さに流れていってしまう。 個人的には「真相」と「18番ホール」がお気に入り。 人間の弱さが見事に表現されている。 横山秀夫は小説を書くときに細かいプロットを全て設定してから書くという話を聞いたことがある。 上の2編は細かいプロットと話の筋が怖いぐらいにフィットしている。 読んだ後も頭の中がガンガン揺さぶられている感じ。 長編の壮大さと短編のキレが両立されていて凄い。 真相 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 真相横山 秀夫 / 双葉社 ISBN : 4575511005 スコア選択: 『Dr.コトー診療所』のモデルにもなったといわれる医師と離島の出会いの物語。
実際にあった鹿児島県下甑(しもこしき)島の物語。 無医村地区の民生課長が実際に医師を島に連れて来た話。 「事実は小説より奇なり」という言葉がそのまま当てはまる。 「風邪をひいたら内科。怪我をしたら外科。耳や鼻がおかしいと思ったら耳鼻科。その症状に合わせて、整形外科だ、泌尿器科だ、産婦人科だ…と、病院を選び、時には、医師までを選んでいる都会の人々」 という記述があるが、全くもってその通り。 それが普通のことだと思っていた。 …というよりそんなことを意識したことさえなかった。 「医者が外国人だ」 「医師免許がない」 「高齢すぎて死んでしまう」 「来てもらおうと思った医者が他の離島で働いている」 こう書いていくと鉄拳のネタみたいになってしまう事態が続発。 民生課長の著者と村長が二人で(時には著者一人で)解決していく。 しかもキレイな解決というよりは「当たって砕けろ」的な勢いで。 現在の医療体制に問題を投げかける。 …とまで行かないところも面白い。 苦労が良く伝わってくる。 たまにはこういう本を読むのも面白い。 先生助けて!―Dr.コトーをさがして | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 先生助けて!―Dr.コトーをさがして西 秀人 / 小学館 ISBN : 4094187081 スコア選択: ある意味で村上龍らしい作品だと思う。
万人に受け入れられるような作品を書く著者。 その半面で何気なく『13歳のハローワーク』を発表する著者。 本作に納められた短編もそういった「実験的」な雰囲気を感じる。 「希望」がテーマという風に著者はあとがきに記している。 しかし、読者は色々な見方を楽しむことができる。 諦観や絶望を感じることもできる。 楽観・達観の境地に立って読むことも可能。 葛藤が見えてくる。 本作は人間観察の結果を凝縮したような作品だ。 その中に上手いことテーマや知識・色々な雰囲気を折りませている。 時間がとてもゆっくり感じられたかと思えばいつの間にか時間が経っていたりする。 主人公の意識を示したかと思えば、いつの間にかふと意識が途切れたようになる。 つかみどころがありそうでなかったり…。 小説自体が面白いとかそういうこと以前に、こんな小説を書ける作家は尊敬できる。 私にもこの表現力があったらいいのに。 空港にて | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 空港にて村上 龍 / 文藝春秋 スコア選択: 「長編推理小説」というジャンルに分けられている本作。
確かにミステリーにカテゴライズされるものなのだろうが、それでは足りない。 文章自体は稚拙な部類に入る。 書き方や勢いが部分部分でバラバラで決して「良い小説」とは言えないだろう。 最終的に犯人を提示していない辺りも推理小説としては疑問符だ。 ただ、作者(法律家だという)の思いの丈を全てぶつけた情熱的な作品だ。 法曹界の闇や ”弁護士は正義の味方で裁判官は平等公正な執行官” こういった世間の見方に一石を投じる所謂”問題作”かもしれない。 「『禍福はあざなえる縄の如し』 (略)人生は、禍福―禍いも幸福も混ざり合ってなわれた縄のようなものだ (略)冤罪というものは、決して一人や二人の悪人の悪意や誰か一人のミスだけによって起こるのではなくて、何十本もの藁が縒り合わされて太い縄になるように、何十人もの人間のしたこと、それは悪意ばかりではなくある種の善意、裏切りや過失ばかりではなく、ある種の義務に忠実な振る舞いや、模範的な行為も、みんな縒り合わされて、そういった様々な人間の営みが、交じり合い、絡み合って、それがあるときは冤罪にもなる。」 作者はこのことを言いたいがためにこれだけの作品を書き上げたのだ。 実際にモデルはいないと書かれているが、そういう性格の警察官・検察官・弁護士・裁判官を見てきた作者の心の叫びなのだろう。 そして、法曹界に「偏見」「先入観」を持っている私達のような一般人にも「目を覚ませ」と言いたいのではないだろうか。 参考文献として『裁判官が日本を滅ぼす』(門田隆将 新潮文庫)を挙げておく。 これは同じような題材を取り上げたルポルタージュの秀作である。 死亡推定時刻 | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 死亡推定時刻朔立木 / 光文社 ISBN : 433474091X スコア選択:
えてして面白い作品というのはどんどん読み進めていってしまうものが多い。
「この後はどうなっているんだろう」という心境だ。 「はやくこの後の展開を知りたい!」という思い。 ただ、この本は全く違った。 できるだけゆっくり読み進めていきたい。 残りページが少なくなっていくと「もっと読みたいのに」という気持ちになる。 本気でそう思える作品にはなかなか会えないのに。 子供(あくまで大人が振り返る形だが)の視点から「死」をテーマにした物語が語られる。 自分の身近に「死」が存在している。 自分の愛する者の死。 どう捉え、どう自分の中で租借していくのか…。 葛藤というよりも概観をしっかり捉えた小説。 文章は句読点(特に読点)がものすごく多く使われている。 一見句点のはずの部分でも読点が使われている。 読みにくいのかと思いきや、少年の気持ちになりきってゆっくり読んでいくととても適切に気持ち良い場所に読点が打たれていることに気付く。 「子供から見る死」というテーマで言えば『夏の庭』(湯本香樹実 新潮文庫)もかなりの秀作だが、それに勝らずとも劣らない評価を与えたい。 ラスト シネマ | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 ラスト シネマ辻内 智貴 / 光文社 ISBN : 4334741355 スコア選択:
第48回江戸川乱歩賞受賞作。
CMの製作を手がける主人公が骨董市で手に入れた古い釣竿を巡って殺人が起こる。 最後に明らかにされる釣竿の謎は意外な…。 最終的に解き明かされる、殺人に至る謎がこの作品の肝。 戦時下の日本では平気で行われていた行動が謎になっている。 その行動の発端や当事者にも予想外の展開になった。 作品の筋や流れに無駄がなく、最後まですんなり続いていく。 ただ、話の最初に出てきた伏線が最後までどう繋がっていくのが分かりにくいのが残念だった。 登場人物の性格やバックボーンについては極端というか細かいところが描かれていなくてとっつきにくかったりもする。 推理小説と言っても、謎解き部分はメインではない。 …と、書いてみたものの正直この作品は好きではない。 なんというか最終的な読後感が変なのだ。 この作品のテーマは深いもののはずなのだがどうもしっくりこない。 果たして「当時の常識」を現代に照らし合わせて人間を殺す気になるのか。 例えば総理大臣が戦争中に「当時の常識」に則った行いが現代では違法だとする。 今になってその行動が明らかになった時に地位を明け渡すような世論になるのか。 一部で反対行動が起こったとしても、日本全体の世論になるのか。 テーマと話の重要性が私の頭の中では繋がってこない。 乱歩賞作家は受賞以後の作品に目立つものが多い。 真保裕一しかり東野圭吾しかり。 他作…なのかもしれない。 滅びのモノクローム | Excite エキサイト ブックス > 書籍情報 滅びのモノクローム三浦 明博 / 講談社 ISBN : 4062751682 スコア選択:
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